名古屋高等裁判所金沢支部 平成3年(う)72号 判決 1992年3月19日
本籍
福井市高木二丁目一四一二番地
住居
同市高木一丁目八〇一番地
喫茶店店員
真柄正夫
昭和一七年二月一八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成三年一〇月一六日福井地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官川又敬治出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人野村直之、同杉原英樹共同名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官川又敬治名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用するが、論旨は、量刑不当の主張であり、原判決の量刑が、とくに被告人に対して罰金八五〇万円を付加して処断した点において重過ぎて不当である、というのである。
所論にかんがみ、記録を調査して検討するに、本件は、賭博遊戯機を設置した喫茶店を二軒経営して顧客にゲーム賭博をさせていた被告人が、その所得税を免れようと、売上の一部を除外したり確定申告を他人名義で行うなどして約三七〇〇万円を脱税したという事案であるが、被告人には既に右脱税額に対する本税のほか、多額の重加算税が課せられてその支払いに窮していることなどを十分考慮しても、本件犯行の罪質、右脱税額の多寡、犯行の動機及び態様等に徴すれば、原判決が被告人に対して、執行猶予付きの懲役一〇月の刑のほかに八五〇万円の罰金をもって臨んだのは一般的な量刑基準に照らしても極めて妥当なものであって、これが不当に重いものとはいえない。論旨は理由がない。
よって刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田武律 裁判官 秋武憲一 裁判官 田中敦)
○ 控訴趣意書
被告人 真柄正夫
右の者に対する所得税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。
平成四年一月八日
右主任弁護人 野村直之
弁護人 杉原英樹
名古屋高等裁判所金沢支部刑事部 御中
記
被告人を懲役一〇月(執行猶予二年)に付したうえ、さらに罰金八五〇万円を課した原判決は重きに失し不当である。
以下理由を述べる。
本件捕脱税額は三六七四万五五〇〇円である。近時の脱税事犯の高額化傾向に照らすならば、その捕脱税額は公訴提起に至る脱税事件の内では、額が最も少ない部類に属することは明らかである。
被告人は、既に国税当局から金一二七六万九五〇〇円の重加算税の賦課処分を受け、その支払いを確保するため自宅の土地、建物に国税当局のための抵当権を設定している。
重加算税と罰金刑の賦課が目的、性質を異にし、「二重の処罰」に該当したり憲法三一条の適正手続に抵触しないことは、弁護人としてもこれを認めないわけではない。しかし、両者が同一の行態を基礎にした国家による処分であることに変わりはなく、またその納入先もいずれも国庫であることにかんがみるならば、罰金刑は刑罰の補充性に照らし、重加算税額を踏まえたうえで謙仰的でなければならないと思料する。
されば、被告人(既に本税は納付済み)に対し、更に前記の重加算税に加え金八五〇万円もの罰金を課すことは、「脱税が経済的に割の合わない」ことを知らしめることに目的があるとしても、余りにも重く、原判決はこの点において重きに失し、不当という外ない。
なお被告人は、昨年春から住居の売却処分に懸命に奔走しているが、折からの不動産不況で買い手が現れないのが現状である。
以上